根岸競馬場も東京銀行協会もすでにその全盛は在りし日を偲ぶのみとなってしまい、今は抜け殻のみのようなありさまだ。
さて、ここではさらに歴史的に貴重な同潤会青山アパートを取り上げよう。これも、やはり同じ運命をたどろうとしている。
 この同潤会青山アパートは、関東大震災のおり、都市サラリーマン層に良好な住宅を供給する目的で、日本で最初にできた都市型アパートで、住宅史における貴重な存在だ。また、そのような学問的見地からだけでなく、実際あの通りを歩いて、ほかの通りにはないなにかを感じないだろうか。通り心地とでもいったらいいのだろうか、ある種落ち着いて、和やかでありながら、都会的感覚に溢れた感覚。これは紛れもなく、このアパートがあるためだろう。この都市景観は一朝一夕には、そう創れるものではない。先人の努力と研究が、それを活かせる時代と幸運にもめぐりあえた結果によるものなのだ。